税金相談室
2002年11月20日 23:00:00
グリーンカードかアメリカ市民権か
Q:グリーンカード(永住権)保持者です。アメリカ市民権を取得せずグリーンカードのままでいると、配偶者死亡時の遺産相続の際に不利になると聞きましたが、どういうことですか?
A:グリーンカード保持者とアメリカ市民とで、税法上で異なるのが、配偶者間の財産の移転にかかる贈与税(Gift Tax)、および遺産税(Estate Tax)の取り扱いです。
アメリカ市民である場合、配偶者間の贈与および相続は、贈与税も遺産税も一切関係なく非課税となっています。税法上、婚姻控除(Marital Deduction)と呼ばれ、法的婚姻関係にある夫婦間の財産移転は、生前、死亡時を問わず、税金が一切かからずに行うことができるという規定です。この規定は、財産の贈与または相続を受ける配偶者の国籍がアメリカである場合にのみ適用されます。贈与する側、遺産を遺す側の配偶者が、アメリカ人であるかグリーンカード保持者であるかということは、一切無関係です。
日本の法律
日本の法律では夫婦間の相続は、法定相続分の2分の1、または1億6000万円(2002年現在)のいずれか多額な方の金額を非課税扱いにすることが認められています。従って、生存配偶者は、子など、ほかの相続人と比べてはるかに多額の無税相続が可能です。しかし、まったく税金がかからずに夫婦間の財産移転ができるアメリカと比べると、限度額のある日本の方が税負担が重いといえます。
アメリカの市民権がない場合
アメリカ市民権がなく、グリーンカードや、そのほかのビザを持つ外国籍の配偶者への贈与は、米国税法上、年間10万ドルの特別非課税枠が定められています。年間10万ドルを超える贈与を、非市民配偶者に対して行った場合には、生涯贈与非課税の枠(100万ドル)を使って、その超過分についても課税を免れることできます。
ただし、遺産相続に関しては、アメリカの市民権を有する生存配偶者のみ、全額非課税で遺産を受け取ることができます。遺産相続を受ける生存配偶者が、グリーンカードや、そのほかのビザ保持者である場合は、一定の非課税枠までの遺産は課税されませんが、超過額はアメリカ遺産税がかかります。
アメリカの遺産税
アメリカの遺産税は死亡者が遺した遺産に課される税金です。アメリカの遺産税の計算は、日本の相続税の計算のように各相続人ごとに行うのではなく、相続財産の総体で行います。生存配偶者がグリーンカード、そのほかのビザで、外国籍保持者の場合、その配偶者や子などの相続人の間の遺産分割は遺産税の総額に影響を与えません。一方、生存配偶者が米国市民の場合は、その配偶者への分割遺産に対しては、上述の婚姻控除の適用により、遺産税が発生しません。従って、遺産分割が遺産税の総額に影響を与え、配偶者の取得財産額によって遺産税の総額が変わってきます。
婚姻控除による夫婦間の無税贈与および相続という観点だけからは、グリーンカードでいるよりもアメリカ市民権を取得した方が有利といえます。しかし、アメリカの贈与税・遺産税は、アメリカ市民以外の場合にも、日本と比べてはるかに多額の非課税枠が定められていて、その規定を利用するだけで税金を最小限に抑えることが可能ですから、わざわざグリーンカード保持者がアメリカ市民権を取得する必要はないわけです。
婚姻控除を利用して無税贈与・相続を行っても、生き残った配偶者の死亡によって、子や孫などが遺産相続する時点で、多額の遺産税を納付しなければならないのであれば、せっかく婚姻控除の恩典を利用した意味がないことになります。大切なことは、いかに上手に相続対策をしてそれを実行に移すかということです。
各種の信託の活用
グリーンカード保持者でも、各種の信託(Trust)を活用することにより婚姻控除と同様の扱いを受けることも可能です。適格内国信託(Qualified Domestic Trust)を設立してアメリカ国籍を有しないグリーンカード配偶者の死亡時にアメリカの課税が保証されるのであれば、その配偶者に対しても婚姻控除が認められます。
アメリカ市民権があっても無策でいるよりも、グリーンカードの方がはるかに有利な結果を得ることができる相続税対策を用意することの方が重要と言えます。有効手段として前述の適格内国信託のほかに、生命保険信託、バイパス信託などの検討が勧められます。
米国公認会計士 大島襄会計士事務所所長 大島襄