top of page

税金相談室

1999年11月20日 14:00:00

日本からの不動産直接投資 その1 アメリカでの課税

Inage Hawaii

日本からの不動産直接投資 その1 アメリカでの課税

 

Q:日本に帰国するにあたり、今まで住んでいたアメリカの持ち家を売るべきか、それとも、帰国後も家を残しておいて、人に貸して家賃収入を住宅ローンや固定資産税の支払いに充てていくべきか考えています。帰国後、アメリカからの家賃収入にかかる税金について教えてください。


A:グリーンカード以外のビザでアメリカに滞在していた人は、税法上、滞米中はアメリカの居住外国人(Resident Alien)、帰国後はアメリカの非居住外国人(Non- resident Alien)となります。非居住外国人がアメリカ国内に家を持っており、人には貸さず、本人や家族がアメリカに来た時にだけ使う場合には、固定資産税を払う以外、申告などは一切必要ありません。人に貸して家賃収入を得ると、話は違ってきます。


 家賃収入は、アメリカの税法上、所得税の課税対象となります。後述の「ネットレント課税方式」を選択しないかぎり、「源泉徴収課税方式」が適用されて、家賃収入の30%が連邦税として課されます。テナントが家賃を支払う際、30%の税率で源泉徴収し、家主(非居住外国人)に代わって税金をIRS(内国歳入庁)へ納付します。


 「ネットレント課税方式」を選択すると、家主である納税者が確定申告することになります。総家賃収入から固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、減価償却費などの必要経費を控除して、ネットレント純利益または純損失(不動産賃貸所得)を割り出し、通常の所得税率(15%、28%、31%、36%、39・6%の5段階累進税率)で税金を納付します。


 「源泉徴収課税方式」では、賃貸活動からの収支に関係なく、たとえネットロスの計算が可能であっても、たえず家賃収入の30%を税金として支払わなければなりません。それに対して、「ネットレント課税方式」では、家賃収入からすべての関連必要経費を控除した後の圧縮されたネットの金額に、通常の税率を適用するため、「源泉徴収課税方式」よりも税金がはるかに少なくなります。必要経費の合計額が家賃収入よりも多ければ純損失となり、税金はゼロとなります。


 「源泉徴収課税方式」は、源泉徴収だけで連邦税の納税手続きが完了し、確定申告を必要としません。しかし、テナントと住居の管理を委託された会社は、毎月、家賃の30%を銀行振替でIRSに納付し、年末には1年間分のまとめを「報告書フォーム1042」様式に記入して提出する義務があります。テナントまたは管理委託会社にとっては、いたって煩雑で、専門家の手助けなしにはこの手続きはできません。


 家賃が税金を引かれずに全額支払われている場合、決しておろそかにしてはいけないのが、確定申告書の提出です。「ネットレント課税方式」を選択している場合は、報告を必要とする最初の年度に、「申告書フォーム1040NR」様式に「IRC871(d)条に基づき実質関連所得のネットレントで課税を受ける選択をする」旨を記述し、「ネットレント計算スケジュールE」様式を添付して提出します。申告書を提出しないで、提出期限から1年4ヵ月経過すると、関連必要経費を控除する権利を失い、総家賃収入に対して30%の税金が徴収されます。


 必要経費を差し引いたネットレントが純損失になるため、どうせ税金は発生しないということで申告しないでいるのは、大変危険です。アメリカでは、申告書を提出しないと時効も成立しないため、税務調査が始まると何年でもさかのぼって追徴税、延滞利子、ペナルティーが科されます。

 

 なお、税金は、連邦政府だけでなく不動産が所在する州に対しても、申告納付する義務があります。


 ※次回は、アメリカの持ち家から来る家賃収入について、日本での課税を解説します。


米国公認会計士 大島襄

著者略歴:東京都出身。青山学院大学、ニューヨーク大学大学院卒業。MBA(経営学修士)、CPA(米国公認会計士)。国際税務専門。KPMG LLP特別顧問。著書に『Q&Aアメリカの税金百科』(共著)、『アメリカ税金の基礎知識』あり。

bottom of page