税金相談室
2002年12月5日 23:00:00
日本にある相続財産の売却(2002)
Q:父が亡くなり、日本にいる母と兄弟、そしてアメリカ在住の私とで遺産を相続し、日本側の相続税の申告・納税も済ませました。私の相続財産の中から株式と不動産を処分して、その資金をアメリカへ運び、住宅を購入したいと考えています。不動産と株式の譲渡所得にかかる日本とアメリカでの税金について教えてください。
A アメリカ居住者が日本にある財産を売却するわけですから、日本の税金とアメリカの税金の両方について検討しなければなりません。
● 日本での課税
日本で相続によって取得した財産を、アメリカ居住者(日本の非居住者)が売却する際、財産の種類によって日本の居住者が売却する場合と、取り扱いが異なるので注意が必要です。
まず、株式の売却についてですが、アメリカに住んでおり日本の非居住者である場合、株式の譲渡所得に関する納税・申告は日本では必要ありません。株式の譲渡所得に対する課税は、日本の居住者については日本で、アメリカの居住者についてはアメリカでというのが税法上の基本概念となっているためです。日本に住んでいる相続人(母と兄弟)が、相続株式を売却した場合にだけ日本での課税が生じるわけです。
次に、日本にある不動産をアメリカの居住者が売却する場合、日本とアメリカの両国で申告しなければなりません。不動産の売却益(譲渡所得)は、売却代金から不動産の所得時の金額(所得費)、および売るためにかかった費用(譲渡費用)を差し引いた金額です。
日本の税法上、相続財産の取得費は、被相続人(亡くなった人)の歴史的取得価格を相続人が引き継がなければならないため、何十年も前に購入した場合は、株式や不動産の取得費が分からないことがあります。このような場合には、売却価格の5%を、株式まはた不動産などの取得費として申告します。
なお、2003年から日本の居住者のための株式売却益に対する税制が変わります。以前は上場株式を損して売る時は「申告分離課税」を選択して無税で済ませ、ゲイン(得)で売る時は「源泉分離課税」を選択して売却金の1・05%の所得税(住民税は無税)を支払えば済ませることができました。2003年以降は原則として申告分離課税に一本化され、しかも損得に関係なく、株式を売った翌年に確定申告の義務が生じます。税率は現行の26%から20%へ下がります。
● アメリカでの課税
アメリカの居住者が相続によって日本で取得した財産を売却する場合、アメリカでの納税・申告が必要です。申告に必要なデータのうち、株式および不動産の売却代金、譲渡費用、株式の銘柄、株数などについては、日本での売却関連資料から知ることができます。
相続財産の取得費については、日本(歴史的取得価格)と異なり、相続発生時(死亡時)の時価(マーケット・バリュー)を使用するというのがアメリカの税法規定です。
ここが日本の方式とは大きく異なる点です。日本では、取得費を売却代金の5%と設定した場合なども含め、売却代金が取得費よりもかなり高くなり税金も多くかかることがあります。
一方、アメリカでは相続発生後、それ程期間がたたない売却は、相続時の時価と売却時の価格はほぼ同じになるため、税金がまったくかからないか、かかったとしても多額にはなりません。アメリカでは、申告はするものの無税となるわけです。
また、相続財産の売却には、キャピタル・ゲイン税の優遇措置が利用できます。株式や不動産を相続してから売却するまでの保有期間が1年以下であっても、1年超保有したと見なされ、比較的有利な長期キャピタルゲイン税率(20%または10%)が適用されます。
以上のように同じ相続財産の売却でも、日本の居住者とアメリカの居住者では適用される税法の規定が異なります。そのためアメリカ居住者は、株式売却は両国で無税、不動産売却は日本だけで課税、アメリカでは無税という結果となり、はるかに税金が少なくて済ませることができるのです。
米国公認会計士 大島襄会計士事務所所長 大島襄