税金相談室
2007年2月12日 23:00:00
現金主義と発生主義
質問:個人納税者の会計処理方法は現金主義であると聞きましたが、どういうことですか。
答え:
● 会計処理方法
課税所得を決定するにあたって、一定の収益の認識基準に従って計算を行なう必要があります。収益の認識基準には、現金主義と発生主義の二通りの代表的な会計処理方法があります。
現金主義は、個人納税者の課税所得の計算するための会計処理方法です。現金主義では、現金または現金等価物を実際に受け取った年度、あるいは実質的に受領した年度に収益を認識し、実際に現金を支払った年度に費用を認識します。
一方、発生主義は、個人事業や法人の課税所得の認識に用いられる会計処理方法です。発生主義では、現金の受け払いの時点ではなく、金銭などを受け取る権利が確定した時点で収益を認識し、支払うべき債務とその金額が決定した時点で費用を認識します。
事業活動に従事することなく帳簿記録を残していない個人納税者は、現金主義を採用して税金申告します。自営業や法人でも、過去3年間の平均総収入が500万ドル以下であれば現金主義を採用できますが、平均総収入が500万ドルを超える場合は発生主義の採用が義務付けられます。販売活動に従事して棚卸資産の計上義務のある納税者は、仕入や売上などを発生主義で計上する義務があります。給与や利子配当、項目別控除などの個人的活動には現金主義を採用し、事業活動には発生主義を採用することが認められます。また、複数の事業活動に従事している場合に、事業活動によって異なる会計処理方法を採用することも認められます。
● コンストラクティブ・レシート(Constructive receipt)
実際には入金されていなくても、実質的に受領したことと同等の効果があり現金を受け取ったと見なされる場合には、その時点で収益が課税対象の所得となります。これをコンストクラクティブ・レシートといい、現金主義に適用される概念です。例えば、12月30日に同日付の給与の小切手を受け取り、年明けの1月4日に銀行口座に入金したとします。収益の認識日を、小切手発行日の12月30日とするか、銀行口座への入金日の1月4日とするかによって課税年度が異なります。この場合、小切手の発行日に既に納税者の管理下にあり、支払者の銀行口座から資金を引き出すことが可能であるため、実質的に受け取ったことと同等の効果があります。入金日の1月4日ではなく、発行日の12月30日に所得として報告する義務があります。
● 減価償却
家具、機械、什器、車、コンピューター、不動産などの固定資産を事業用に購入した場合、収益との対応関係から繰り延べることが妥当とされて、現金主義の納税者であっても、購入年度に取得費の全額を必要経費として一括費用計上することは認められません。年の経過によって固定資産の価値が経済的、物理的に減少する期間にわたって按分計算して費用計上する「減価償却」が適用されます。
「減価償却」は、自営業や法人の事業所得、賃貸活動の不動産所得などの計算上、不可欠な項目です。資産の購入代金(取得費)を特定基準(償却方法)に従って資産が使用できる期間(耐用年数)にわたって配分し、経費(減価償却費)にしていく方法です。
● 収支のタイミング
売上や支出の年度と実際の金銭受払の年度が異なる場合、現金主義のもとでは、現金の受領年度の所得と支払年度の経費として取り扱われます。例えば、音楽家が公演した年度の翌年に報酬を受け取ったとします。役務提供年度と報酬受領年度が異なる場合、収益を認識する年度は実際に現金が支払われた年度(後の年度)となります。発生主義では、逆に役務が提供された年度(前の年度)となります。
また、例えば、旅行代理店を通じて翌年1月の出張のために予約した航空券の代金を、12月中に支払ったとします。費用発生年度と支払年度が異なる場合、経費を認識する年度は、現金主義では実際に支払をした年度(前の年度)であり、発生主義では費用発生年度(後の年度)となります。